あの絵を肴に

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LOUVRE No.9 - 9番目の芸術

学生時代、作文はちっとも苦じゃなかった。

学年生徒数が三十数名ほどしかいなかった高校では、よく作文で満点の一位をとった。

その作文の一つに、「まんがは芸術である」というタイトルのものがある。

「とにかく熱い!」。これが先生の評だった。

 

そんな「熱い!」作文を書いた高校時代の私にとって、「我が意を得たり!」というような風潮がここのところある。

各地の美術館で漫画展が催されるようになった。

京都には、京都国際漫画ミュージアムという、漫画に特化した美術館がある。

世界に目を向ければ、あの世界一の観客動員数を誇るルーヴル美術館が、漫画を芸術と認め、漫画とルーヴルとのコラボレーション企画を進めている。

とのことで、

 

そのプロジェクトの展覧会がこちら。

 

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「LOUVRE No.9 -漫画、9番目の芸術」展。

森アーツセンターギャラリー。

 

ルーヴル美術館があるのはフランス。

そのフランス、そしてヨーロッパのフランス語圏の国々にはBD(バンド・デシネ)という漫画文化があり、そのBDを芸術の国フランスは、「第9の芸術」と位置づけたのだそうだ。(第1、建築。第2、彫刻。第3、絵画。第4、音楽。第5、文学(詩)。第6、演劇。第7、映画。第8、メディア芸術。が、諸説アリらしい)

 

そして、漫画といえば日本でしょ!?と思う日本の漫画ファンも多い事と思う。

そう、日本には日本の漫画文化があり、フランスで大人気の日本漫画だっていっぱいあるのだ。

「LOUVRE No.9」は、お互いに独自の漫画文化を発展させてきたフランス語圏のBD作家と、日本の漫画家に、「ルーヴルをテーマに自由に作品を描いてもらう」というプロジェクトが進められ、それが展覧会化されたものらしい。

 

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こちらはルーヴル美術館を象徴する(ルーヴルを象徴する館所蔵作品は数多あれども)、サモトラケのニケのレプリカと、彼女の周りを舞うBDと日本漫画の原稿。(…頭の中ではサモトラ家の三毛と変換しがちなのはここだけの話) 

 

BDがどういう感じの漫画なのかというと、説明するのは難しく、責任重大な気が勝手にしてるので、あくまで私個人の印象ではあるけれども、若干冷や汗をかきながら説明させていただくと、私の友人の一言を借りるのが一番わかりやすい気がする。 

 

彼はベルギーのBD作家さんで、ある日、日本の漫画雑誌をパラパラ見て、ふと顔を上げて力強くこう言った。

「顔ばっかりだ!」

 

そう、日本の漫画は登場人物の行動や心理を追うものが多いので、必然的に顔のアップも多くなる。

対してBDは、もう少しひいて人間や、登場人物を取り巻く背景を捉えている感がある。

割と穏やかに淡々と話が進行していく作品が多いのも特徴的。

全体的に、ちょっとシックで落ち着いてる大人な感じ。

 

これは別に日本の漫画が子供っぽいと言っているのではなくて、日本の漫画の方がよりドラマチックな演出方法をとっている、というか、エンタメ性が顕著なものが多い、といえると思う。

日本の漫画編集さんが、売れる法則としてそういうものを好んできた、という事も影響してるかも。

 

いずれにしろBDも日本漫画も、子供から大人まで親しまれ、愛されているものである事には変わりはない。

 

そんな大衆に好かれる漫画を芸術として認めたフランスの、御自慢のルーヴル美術館からの要請を受けて、プロジェクトに参加したBD作家達と日本の作家達16名が、おもいおもいのルーヴルを描き、その生原稿や、さらにその前段階にあたる生絵コンテ(日本だとネームと呼ばれているもの)が展示されている「LOUVRE No.9」。

さすがに世界最高峰の美術館からご指名されるだけ、皆様本当にお上手でいらっしゃる。

 

お上手すぎて、観てるうちに「もうやめてくれー!」と叫びたくなる。

他の展覧会も、みんなウマい人達の展覧会なのに、土俵の問題なのか、それとも人数の問題なのか。

展覧会は大体1人、または2、3人をフォーカスしたもの、あるいはもっと大多数の、何十人かのウマい人達のまとまった展覧会が多い気がする。

それだと対少人数で済むか、もしくはうまい具合に分散してくれたりするんだけど、16人という人数は、分散されきれずに16という数字そのままでウマさが襲ってくる。

絵コンテですらなんでそんなにお上手なんですかー!?やめてくださーい!!(悲痛な叫び)、て感じだ。(個人的には松本大洋さんのネームに親近感を覚えましたが)←松本さんの名誉の為に言えば、松本さんは大変絵がお上手です。いや、言うまでもない事なんですが。

 

 

観終わって思ったのは、日本の作家さん方は、やはりどこかBD寄りの作画をされる方が選ばれている印象。

谷口ジローさんも松本大洋さんも、すでにフランスでも人気者でいらっしゃいます。

けれど、私がすきな作家さんである松本大洋さん、五十嵐大介さんとも、たとえあのルーヴルからの依頼であろうと、どこまでも「らしい」作品を描かれていらっしゃるところがまた、大変嬉しかったし、頼もしかった。

 

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松本大洋さんの「ルーヴルの猫」

 

それはおそらく、まだ私が作品を未読の作家さん方もそうなんだろうなと思いました。

 

参加された作家の方々はこちら。

 

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松本大洋さんと谷口ジローさん。

谷口ジローさん(今だと【孤独のグルメ】が有名ですね)の作品はきちんと拝読した事はないのですが、凄い方だというのは伝わってくるので、お二人のパネルが並ぶと圧巻。

松本大洋さんも【ピンポン】、【Sunny】など、名作多数。

 

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五十嵐大介さんと坂本眞一さん。

五十嵐さんは、【リトル・フォレスト】が映画化されましたね。現在はアフタヌーンで【ディザインズ】を連載中ですが、こちらも大変素晴らしいです。

繊細で美しい絵の坂本眞一さん、代表作は【イノサン】。

 

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寺田克也さんと、ヤマザキマリさん。

センスがよくてポップな絵柄の寺田さん、代表作は【西遊奇伝 大猿王】。

美術通としても有名なヤマザキさんは、もちろん【テルマエ・ロマエ】の作者さん。

そしてこちら。

 

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ズバ抜けて大迫力。

ジョジョの奇妙な冒険】の荒木飛呂彦さん。

 

BDの作家さんの方々。

 

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クリスティアン・デュリユーさん

 

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エンキ・ビラルさん

 

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ダヴィッド・プリュドムさん

 

特に私は、ダヴィッド・プリュドムさんの、確かな技術の重厚感もありながらも、軽やかな線でユーモアを感じさせる、どこかとぼけたところがある作品が好きでした。

 

BDも日本漫画も、私の知人の作家さん達の参加はなかったけれど、BDにも日本漫画にも、他にもたくさん面白くていいものがある。

BDも日本漫画も、もっとたくさんいろんな人に読まれたらいい。

アメコミだって、アートだと思う。

今の私は高校時代の熱さからは少しさがったところにいるけれど、漫画をアートとしてとらえる事で、いろんな人達が漫画に接する機会が増えるならば、こんな嬉しい事はない、と、今の私は今の私なりに、静かに熱く、かくの如く思った次第であります。