私の実家は、愛知県豊田市にあります。
文字どおり、豊かな田んぼの市でございます。
田んぼと畑と山に囲まれて工場があり、蛙の合唱で賑やかな田んぼの畦道を車が走ってる様子を、どうぞ思い浮かべて下さい。
それが豊田市であります(言いきった)。
こんな田舎っぷりも実は自慢だったりするのですが、先日の里帰りで物凄い発見をしました。
それがコチラ、豊田市美術館です。

うららかな陽気と長閑な田舎風景の中。
涼し気に佇む美術館。
SNSを始めてから、「すごくきれい!」とか、「カッコイイ!!」とか、その評判を目にする機会はたくさんありましたが、実物を前にすると本当に、美しい。
息を飲む美しさ。
建築の事はよくわからないけれど、建物でこんなにときめいたのは初めてかもしれません。
こんな美しいものがこんな田舎にあったなんて…!
ギャップ萌えとでもいうのでしょうか?
このときめきは、きっとこの建物が内包しているもの達への期待感もあったかもしれたせん。

そしてなんとこの展覧会、平日は写真撮影OK、とのことなので、
パシャー。

パシャー。

モディリアーニ!!
パシャー。

マティス!!!
私、写真の腕はイマイチなのでひとまずこの辺にしておきますが、他にも展覧会のカオになってるゴッホ、さらにゴーギャン、モネ、ドガ、セザンヌ、ルオー、クールベ、ボナールや、ピカソなど(ピカソ含む一部作品は著作権保護でSNSでのアップが禁じられている作品もあります)、誰もが聞いたことのある画家の、誰もが一度は見たことのある名画揃い。
いいの。
こんなにたくさんの名画がこんな片田舎に来ていいの…!?
と、ドキドキしながら観てまわりました。
写真撮影可の展覧会も初めてだから、パシャー、パシャー、と写真を撮りまくりながら。
うっかりフラッシュをたかないように、シャッター音が出てくる所を指で押さえ、なるたけ音が小さくなるように。
でも初めてだからか、これがまた楽しくて!
それで興奮しちゃって、ついうっかり、スマホを絵に近づけすぎちゃって、スタッフの方に注意されてしまいました…。
ごめんなさいm(_ _)m
友人同士で展示作品の前で記念撮影されてた方々も注意を受けてました。
楽しいから、ほんと、ついうっかり、ですね。
気をつけましょう。
そんな撮る楽しさもあるのですが、なにしろ名画揃いの展覧会、観る楽しさも忘れてはいけません。
写真だけでは画家の息づかいとも思える迫力ある筆使い、ふくよかで重厚感のある彩色、そしてそこに画家が一番刻みつけたかったものが、感じきれないように思います。
ひとりよがりでも、画家と一対一でコミュニケーションがとれる楽しさ。
その楽しさがあるのが、自分の目で直接絵と対峙して観る事にあるように思うのです。
私の中で特に印象に残っている絵がこちら。

パウラ・モーダーゾーン・ベッカー
「年老いた農婦」
描いた彼女自身は31歳の若さで亡くなってしまうのですが、若い彼女の、勤勉で実直な年老いた農婦に対しての尊敬の念が感じられ、膝元にある一輪の、黄色く小さな可憐な花にもそんな思いが込められているようで、とてもいじらしい作品。
こんな風に歳を重ねられたら。
それから、オットー・ディクスの「自画像」。
青年らしい青さが際立つ、爽やかな青い背景のこの自画像を描いたドイツの青年ディクスは、第一次世界大戦に従軍、のちに戦争の悲惨さを表現する画家となり、それがためナチス政権に嫌われ、退廃芸術家として多数の作品の没収、美術アカデミーからの追放なんて目にあってしまいます(戦後にはアカデミーに復帰)。
人に歴史あり。
多くの画家さんや、多くの人にそう思いますが、この青い自画像を描いたドイツの画家の事を今まで知らなかっただけに、感じ入ったものがありました。
私も戦争、嫌いです。
さて、こんな風に楽しんで観て、楽しんで撮ってきた名画達。
せっかく手元に写真があるのだから、帰った後も楽しまない手はないのです。
さあどうしましょう。
観て、撮って楽しいなら、描いてもさぞ楽しかろう!と思い、描いてみました、デトロイト美術館展の名画のいくつかを。
もう何年も前に買い揃えて以来、ずっと使ってなかったペンを引っ張り出して。
描き始めたら時間がいくらあっても足りないという事はなんとなくわかるので、時間制限を設けます。
タイムリミット、5分!
さあ、できるかな?
スタート!!

…5分、超えちゃった!
音楽聴きながら描いて、4曲くらい通り過ぎた気がする…!
元の絵がこちら。

カロリュス・デュラン
「喜び楽しむ人々」
「よくもまあ元の絵を出す気になれたな」という声が聞こえてきそうですが、いやなに、久しぶりに使ったペンですから!
人物、4人もいるし!
大変だったの!
次はもっとシンプルに!
この絵はね、中学の美術の時間に模写した記憶もある。
だからきっともっと上手く描けると思うよ!

…音楽が3曲くらい通り過ぎた…。
二度目の模写なんだから、もう少し余裕持ててもよかったんじゃないかしら…?
元の絵がこちら。

ピエール・オーギュスト・ルノワール
「白い服の道化師」
いやはやルノワール先生、素晴らしい。
ただただ頭が下がります…。
次はガシャガシャ描いてもそれっぽく見えるものにしましょうね、うん。

…ガシャガシャに見えるから簡単なんて、とんでもなかった。
もちろん5分では描ききれず。
元の絵がこちら。

エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー
「月下の冬景色」
…ガシャガシャに見えても、奥が深いんですねぇ、キルヒナー先生。
ガシャガシャに見えるから簡単そうとか思ってごめんなさいねぇm(_ _)m
模写しても下手クソは下手クソなんだから、せめてボケるくらいのユーモア見せろ!なんて言われそうだけど、無理っス!
そんな余裕、ないっス!!
筆(ペンですが)を進めれば進めるほど、自分の手元と実際の絵とのギャップにただただ唖然とするばかり。
すごい、すごいんですよ、さすが名作を後世に遺された画家先生達…!
自分の下手クソさを思い知らされたのならそりゃアンタ、あんまり楽しくなかったんじゃないの?と思われるかもしれませんが(まあ多少、落ち込みますが)、夢中になれるんです。
思い知れば知るほど。
その絵の素晴らしさの秘密が目の前でつぶさに紐解かれてゆく感じで、5分なんて、アッと言う間。
もちろん秘密は解ききれません。
だから時間制限を設けないと、本当にえんえんえんと描き続けてしまう。
それくらい、夢中になっちゃう。
やっぱり、楽しい。
絵描きですからね、下手クソでも。
楽しいと思えた事も、また嬉しや、なのであります。
さて豊田市美術館、これだけではありません。
常設展も物凄い事になっております。
実に錚々たる顔ぶれの作家の作品群が、なにくわぬ顔をして展示されているのです。
あれ、ここ田舎だよね?
豊田だよね??
と、自分が知ってるはずの世界とは違う、異次元空間に迷い込んだような、眩暈のようなものを感じながら、豪華すぎる展示を、夢見てるような、覚束ない足取りで観てまわりました。
(この展示での最たる収穫は、宮脇晴という画家と、ミュージアムショップでは宮脇晴の妻、宮脇綾子というアップリケ作家(←かわいい!)を知れたこと)
現在は山本富章「斑粒・ドット・拍動」展と、「絵画凸凹」展。
それぞれの作品にそれぞれの贅沢な展示空間。
洗濯バサミ14,000個を高さ約10mのガラス壁に規則正しく配置されている山本富章「bugs」は圧巻。
あんぐり。
美術館の二階からは豊田市内が一望できます。

スタジアムのまわりを囲む田んぼの蛙達も、声高らかに祝福の歌を捧げたことと思います。
そのスタジアムの左隣の白いのが、私が帰省した直前に「橋の下世界音楽祭」が催された豊田大橋。
飲み物とか食べ物とか、歌とか踊りとか、プロジェクトFUKUSHIMA!+珍しいキノコ舞踊団とか、面白そうだった!
来年はぜひ行きたい!!
さて、 中の展示を観終わったので外に出てみても。

庭に出てみても。

どこに目をやっても、どんな風に切り取っても、アート空間として成り立っているところがすごい。
そんな抜かりのなさでも全然息が詰まらない。

この池の淵で一日中ぼーっとしていたいくらい、ゆったりとした寛ぎの空間。
14時に行って閉館の17時までいましたが、それでも足りなかったです。
地元にこんな良い美術館があるなんて、地元に住んでた頃は知らなかった。
というか、見向きもしなかった。
うちは転勤族だったし、転勤から帰っても私は大学卒業と同時にさっさと家を出たし、何より素敵なものはみんな遠い遠い、外にだけあるのだと思ってた。
こんなに近くにあったなんて。
離れてから気づくなんて、もったいない事したよなぁと、痛感いたしました。
まさに、私にとって幸せの青い鳥のような美術館です。
鳥といえば、鳥好きで大変気さくな、このブログにも何度かご登場いただいてる豊田市美術館の館長さん(私の中であだ名はダンディーバーディー館長さん)はじめ、ツイッターで何人か学芸員さんをフォローさせていただいております。
私の友人も学芸員なのでおぼろげにわかるのですが、大変なお仕事の中、皆さん本当に真摯に作品と向き合ってらっしゃって、だからこそ私達は素敵なものが観られるのだなぁと、改めて感謝しております。
都会には都会の。
地方には地方の。
それぞれの美術館の良さがあって、わざわざここまで来てよかったって思える美術館は、きっといくつもあるんじゃないかと思います。
その中でも豊田市美術館は、間違いなくそういう風に思わせてくれる、本当に素晴らしい美術館なのです。
このブログは一部、デトロイト美術館展の図録を参考にさせていただきました。←この図録もまた素晴らしかった!